はじめに
「吸引してもすぐ痰が貯まる」「痰が上がってこない」「ゴロゴロしているのに喀出できない」
臨床ではこのような場面をよく経験します。
私が新人の頃はそれらの場面に対して、繰り返し吸引するか去痰薬をしようするかのどちらかしか対応方法がないと考えていました。
しかし、排痰がうまくいくかどうかは、単に吸引技術だけではなく、
- 咳で押し出す力(咳嗽力)
- 痰を移動させる体位(重力)
- 痰そのものの性状(粘稠度)
という“排痰の3要素”が大きく関係しています。
この記事では、排痰ケアを考えるうえで重要な「咳嗽力・重力・粘稠度」について、看護師視点で分かりやすく解説します。
排痰の3要素とは?
排痰では「痰を動かす」「痰を出す」という2段階を考えることが重要です。
そのために必要なのが以下の3要素です。

この3つのどれかが低下すると、痰の貯留や無気肺、酸素化低下につながる可能性が高くなります。
また分泌物貯留が進行すると、換気障害や呼吸不全につながる可能性があります。

咳嗽力|痰を押し出す力
咳嗽力が低下するとどうなる?
咳嗽力が弱いと、痰を気道の外へ排出できません。
その結果、
- 痰の貯留
- 気道閉塞
- 無気肺
- 肺炎
などを起こすリスクがあります。
咳嗽力が低下する原因
咳嗽力は単純な筋力だけでなく、「しっかり息を吸えるか」も重要です。
そのため、
- 疼痛
- 鎮静
- 筋力低下
- 意識障害
- 高齢
だけでなく、
- 肥満
- 便秘
- 腹部膨満
- 腹水
など、横隔膜の動きが制限される状態でも咳嗽力は低下します。
横隔膜が挙上すると十分な吸気量を確保しにくくなり、強い咳ができなくなるためです。
特にICU患者では、疼痛や人工呼吸器管理によって十分な咳ができないことがあります。
看護でできること
咳嗽力を保つためには、単に「咳を頑張ってもらう」だけではなく、深く吸える状態を作ることも重要です。
そのため、
- 疼痛コントロール
- 早期離床
- 咳介助
- 吸引
に加えて、
- ギャッチアップ
- 体位調整
- 排便コントロール
なども重要な看護となります。
ギャッチアップ・体位調整
上半身を挙上すると腹部臓器による横隔膜の圧迫が軽減され、横隔膜が動きやすくなります。
その結果、深呼吸しやすくなり、咳嗽力改善につながります。
排便コントロール
便秘や腹部膨満があると横隔膜が挙上し、十分な吸気量を確保しにくくなります。
そのため、排便コントロールも排痰ケアの一つとして重要です。
重力|痰を移動させる力
重力が排痰に重要な理由
痰は重力の影響を受けながら気道内を移動します。
そのため、体位を調整することで痰を中枢側へ動かしやすくなります。
これが体位ドレナージの考え方です。
同一体位が続くリスク
長時間同じ姿勢が続くと、
- 痰が貯留する
- 背側無気肺
- 換気血流比不均衡
などが起こりやすくなります。
特に臥床患者では背側肺に痰が溜まりやすいため注意が必要です。
看護でできること
- 定期的な体位変換
- ファーラー位
- 側臥位の活用
- 離床
「どこに痰がありそうか」を考えながら体位を調整すると、排痰を促しやすくなります。
体位ドレナージを行う時間
体位ドレナージでは、重力を利用して痰を中枢側へ移動させます。
体位ドレナージの保持時間について明確なエビデンスはありませんが、痰が実際に移動するまでにはある程度時間が必要であるため、3〜15分程度を目安として実施されることがあります。
一方で、長時間同じ体位を続けると、
- 疼痛
- 呼吸苦
- 疲労
- 体圧による苦痛
などにつながる可能性があります。
そのため、「長くやれば良い」というわけではなく、患者の状態を観察しながら実施することが重要です。
体位ドレナージ中の観察ポイント
体位ドレナージ中は、呼吸音の変化を評価することが重要です。
例えば、
- 痰が移動して副雑音が変化する
- ゴロゴロ音が中枢側へ移動する
- 呼吸苦が増悪していないか
などを観察します。
必要時には体位を調整しながら、患者にとって過度な負担になっていないか確認することが大切です。
また、動脈圧ラインが留置されている患者では、看護ケア後に血液ガス検査を行うことで排痰ケアの効果を評価しやすくなります。
例えば、
- PaO₂の改善
- PaCO₂の変化
- 酸素化の改善
- 換気状態の変化
などを確認することで、体位ドレナージや排痰ケアが呼吸状態へどのように影響したかを客観的に評価できます。
ただし、血液ガスの数値だけで判断するのではなく、
- 呼吸音
- SpO₂
- 呼吸回数
- 呼吸パターン
- 喀痰量
なども合わせて総合的に評価することが重要です。
血液ガスの読み方については、こちらの記事でも解説しています。

粘稠度|痰の出しやすさを左右する要素
痰が粘稠になる原因
痰の粘稠度が高いと、気道壁に張り付きやすくなり排出が困難になります。
原因としては、
- 脱水
- 加湿不足
- 発熱
- 人工呼吸器管理
- 炎症
などがあります。
粘稠痰による影響
- 吸引困難
- チューブ閉塞
- 無気肺
- 酸素化低下
などにつながります。
排痰不良によって酸素化が低下すると、代償的に呼吸数が増加することがあります。
頻呼吸については、こちらの記事でも解説しています。

看護でできること
- 適切な加湿
- 水分管理
- ネブライザー
- 口腔ケア
- 痰性状の観察
痰の「量」だけでなく、
- 色
- 粘度
- におい
- 血液混入
などを観察することも重要です。
排痰ケアでは3要素をセットで考える
例えば、
- 痰が硬い → 加湿不足?
- 痰はあるが出せない → 咳嗽力低下?
- 背側に痰が溜まる → 体位の問題?
というように、3要素で整理するとアセスメントしやすくなります。
吸引だけに頼るのではなく、「なぜ排痰できないのか」を考えることが大切です。
まとめ
排痰には、
- 咳嗽力
- 重力
- 粘稠度
という3つの要素が大きく関係しています。
痰が出せない患者では、「どの要素が障害されているのか」を考えることで、より効果的な呼吸ケアにつながります。
新人看護師のうちは、まずこの3要素で整理する習慣をつけると、排痰アセスメントがしやすくなります。
痰の貯留は無気肺や酸素化低下につながり、ガス交換障害の原因となることがあります。
ガス交換障害については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

参考文献
1)看護過程に沿った対症看護 第4版
2)ICU3年目ナースのノート 改訂増強版
3)院内研修資料
4)ナース専科「体位ドレナージとは|目的・方法・注意点」
https://knowledge.nurse-senka.jp/204630/(閲覧日:2026年5月29日)
関連記事






コメント