- はじめに
- 血液ガスは「5つの項目」から見れば迷わない
- 【新人がまず覚えておきたい正常値】
- 血液ガスの読み方【5ステップ】
- Step① pHを見る
- Step② PaCO₂を見る(呼吸の問題かを判断する)
- Step③ HCO₃⁻を見る(代謝の問題かを判断する)
- Step④ PaO₂を見る(酸素化を評価する)
- Step⑤ Lactateを見る(循環の状態を評価する)
- ICU/HCUでよく見る血液ガスの実例
はじめに
ICUやHCUに配属されると、血液ガス(ABG)を見る機会は一気に増えます。
しかし新人の頃、「pHが低い」「PaCO₂が高い」など、異常な値であることは分かっても、それが何性のアシドーシスなのか分からないと戸惑った経験はないでしょうか。
私自身、新人の頃は血液ガスの結果を見て、「何かおかしい」と感じても、このまま経過を見てよいのか、それともすぐ医師に報告すべきなのか判断できず、迷いながら先輩に報告していたことを覚えています。
「これは呼吸性?代謝性?」「どのタイミングで報告すべき?」と悩み、血液ガスに対して苦手意識を持っていました。
血液ガスは一見すると難しく感じますが、実は見る順番と判断のポイントを押さえることで、患者の状態や緊急度をある程度判断できるようになります。
大切なのは、「何性の異常か」と「どの程度危険なのか」を、順番に整理して考えることです。
この記事では、新人ICU・HCU看護師の方に向けて、
「何性のアシドーシス・アルカローシスか迷わない読み方」と、「報告が必要な血液ガスの判断ポイント」を、5つのステップで分かりやすく解説していきます。
血液ガスの値を見て迷ってしまう方や、「これは報告した方がいいのか」と不安を感じた経験のある方の助けになれば幸いです。
血液ガスは「5つの項目」から見れば迷わない
血液ガスの結果には多くの項目が並んでいます。
PaO₂、PaCO₂、HCO₃⁻、BE、SaO₂、Lactate など、初めて見ると「どこから見ればいいのか分からない」と感じることも多いと思います。
しかし新人のうちは、すべてを理解しようとする必要はありません。
まずは、患者の状態や緊急度を判断するために必要な「5つの項目」に絞って確認することが大切です。
新人ICU・HCU看護師がまず押さえておきたい項目は、次の5つです。
① pH(水素イオン指数)
② PaCO₂ (動脈血二酸化炭素分圧)
③ HCO₃⁻ (重炭酸イオン)
④ PaO₂ (動脈血酸素分圧)
⑤ Lactate(乳酸)
この5つを見ることで、次のような重要な情報を把握することができます。
・pH:体が酸性かアルカリ性か(まず全体の方向を見る)
・PaCO₂:呼吸がうまくできているか(換気の状態)
・HCO₃⁻:代謝の異常が起きていないか
・PaO₂:酸素が十分に取り込めているか
・Lactate(乳酸):循環が保たれているか(ショックの兆候)
これらは、ICUやHCUで患者の状態を判断するうえで特に重要な項目です。
例えば、
・PaCO₂が上昇していれば「換気が不足している可能性」
・PaO₂が低下していれば「酸素化が不十分な可能性」
・Lactateが上昇していれば「循環不全やショックの可能性」
といったように、患者の体の中で何が起きているのかを推測する手がかりになります。
また、血液ガスを見たときに「異常値かどうか」を判断するためには、正常値の目安を覚えておくことも重要です。
【新人がまず覚えておきたい正常値】

すべての項目を一度に覚えるのは大変ですが、まずはこの5つだけでも覚えておくと、血液ガスを見たときの不安は大きく減っていきます。
次の章では、実際に血液ガスを見たときに「どの順番で確認すればよいのか」を、5つのステップで解説していきます。
血液ガスの読み方【5ステップ】
血液ガスを見るとき、「どこから見ればいいのか分からない」と感じたことはないでしょうか。
項目を順番に確認せずに見てしまうと、情報が多すぎて混乱しやすくなります。
大切なのは、必ず同じ順番で確認することです。
順番を決めておくことで、血液ガスを見るたびに迷うことがなくなり、「何が起きているのか」を整理して考えられるようになります。
ここでは、新人ICU・HCU看護師が実践しやすい5ステップで血液ガスの読み方を解説します。
Step① pHを見る
Step② PaCO₂を見る
Step③ HCO₃⁻を見る
Step④ PaO₂を見る
Step⑤ Lactateを見る
まずは、すべての基本となるStep① pHの確認から始めます。
Step① pHを見る
血液ガスを見たら、最初に確認するのはpHです。
pHは、体が「酸性」に傾いているのか、「アルカリ性」に傾いているのかを示す、とても重要な指標です。
この最初の方向を確認することで、その後の判断がしやすくなります。
pHの正常値は、次の通りです。
pH:7.35〜7.45
この範囲から外れている場合、体の中で酸塩基平衡の異常が起きている可能性があります。
pHの判断は、まず次の2つに分けて考えます。
pH<7.35 → アシデミア(酸性)
pH>7.45 → アルカレミア(アルカリ性)
例えば、
pH:7.30
→ アシデミア(酸性)
pH:7.50
→ アルカレミア(アルカリ性)
このように、まずは「酸性なのか」「アルカリ性なのか」を判断することが最初の一歩です。
また、pHが正常範囲内であっても安心はできません。
PaCO₂やHCO₃⁻の異常を代償して、見かけ上pHが正常になっている場合もあるためです。
そのため、「pHが正常だから大丈夫」と判断するのではなく、次のステップに進んで原因を探ることが重要になります。
次のStep②では、呼吸の状態を確認するためにPaCO₂を見ていきます。
Step② PaCO₂を見る(呼吸の問題かを判断する)
pHで「酸性かアルカリ性か」を確認したら、次に見るのがPaCO₂です。
PaCO₂は、体の中にどれくらい二酸化炭素(CO₂)が溜まっているかを示す値で、呼吸の状態(換気の状態)を評価するための重要な指標です。
PaCO₂の正常値は、次の通りです。
PaCO₂:35〜45 mmHg
この値が正常範囲から外れている場合、呼吸の異常が関係している可能性があります。
まずは、次のように考えます。
PaCO₂>45 mmHg → CO₂が溜まっている(換気不足)
PaCO₂<35 mmHg → CO₂が少ない(過換気)
ここで大切なのは、pHとPaCO₂の関係を見ることです。
例えば、
pH:7.30(アシドーシス)
PaCO₂:55(上昇)
この場合、CO₂が体内に溜まることで酸性に傾いていると考えられるため、
呼吸性アシドーシスの可能性を考えます。
一方で、
pH:7.50(アルカローシス)
PaCO₂:30(低下)
この場合は、CO₂が過剰に排出されていることでアルカリ性に傾いていると考えられるため、
呼吸性アルカローシスの可能性を考えます。
このように、pHの変化とPaCO₂の変化が同じ方向に動いているかどうかを見ることで、呼吸が原因かどうかを判断する手がかりになります。
ICUやHCUでは、PaCO₂の変化は次のような場面でよく見られます。
PaCO₂が上昇する場面
・鎮静が深すぎる
・人工呼吸器の換気量が不足している
・呼吸筋の疲労
・COPDなどの慢性呼吸器疾患
・痰の貯留による無気肺
PaCO₂が低下する場面
・不安や疼痛による過換気
・低酸素による呼吸促迫
・敗血症の初期
・人工呼吸器の換気量が多すぎる
また、PaCO₂の異常は、患者の状態悪化に直結することがあります。
例えば、
PaCO₂が急激に上昇している場合
→ 換気が急に悪化している可能性
→ 意識レベルの低下や呼吸停止につながる危険性
といったように、単なる数値の異常ではなく、患者の呼吸状態の変化として捉えることが大切です。
次のStep③では、代謝の異常を確認するためにHCO₃⁻を見ていきます。
ここまで確認することで、「呼吸性か」「代謝性か」を判断できるようになります。
Step③ HCO₃⁻を見る(代謝の問題かを判断する)
pHとPaCO₂を確認したら、次に見るのがHCO₃⁻(重炭酸イオン)です。
HCO₃⁻は、体の中の「代謝」の状態を反映する値で、主に腎臓の働きと関係しています。
PaCO₂が「呼吸の状態」を表すのに対し、HCO₃⁻は代謝の状態を判断するために重要な指標になります。
HCO₃⁻の正常値は、次の通りです。
HCO₃⁻:22〜26 mEq/L
この値が正常範囲から外れている場合、代謝に関する異常が起きている可能性があります。
まずは、次のように考えます。
HCO₃⁻<22 mEq/L → 酸が増えている(代謝性アシドーシス方向)
HCO₃⁻>26 mEq/L → アルカリが増えている(代謝性アルカローシス方向)
ここでは、pH・PaCO₂・HCO₃⁻の3つを組み合わせて考えることが大切です。
例えば、
pH:7.28(アシドーシス)
PaCO₂:38(正常)
HCO₃⁻:18(低下)
この場合、PaCO₂は正常ですが、HCO₃⁻が低下しています。
そのため、代謝が原因で酸性に傾いている「代謝性アシドーシス」を考えます。
一方で、
pH:7.48(アルカローシス)
PaCO₂:40(正常)
HCO₃⁻:30(上昇)
この場合は、HCO₃⁻が上昇しているため、
代謝性アルカローシスの可能性を考えます。
ICUやHCUでは、HCO₃⁻の異常は次のような場面でよく見られます。
HCO₃⁻が低下する場面(代謝性アシドーシス)
・敗血症
・ショック
・腎不全
・重度の下痢
・乳酸上昇(Lactate上昇)
HCO₃⁻が上昇する場面(代謝性アルカローシス)
・嘔吐
・胃管による吸引
・利尿薬の使用
・脱水
ここまでのStep①〜③を確認することで、
・酸性かアルカリ性か(pH)
・呼吸が原因か(PaCO₂)
・代謝が原因か(HCO₃⁻)
という3つの重要なポイントが分かります。
つまり、この段階で
「何性のアシドーシス/アルカローシスなのか」
を判断することができるようになります。
新人の頃に迷いやすい「これは呼吸性?代謝性?」という疑問は、
pH → PaCO₂ → HCO₃⁻ の順番で確認することで、整理して考えられるようになります。
次のStep④では、酸素が十分に取り込めているかを確認するためにPaO₂を見ていきます。
Step④ PaO₂を見る(酸素化を評価する)
pH・PaCO₂・HCO₃⁻を確認して「何性の異常か」を判断したら、次に見るのがPaO₂です。
PaO₂は、血液(動脈血)の中にどれくらい酸素が取り込まれているかを示す値で、酸素化の状態を評価するための重要な指標です。
ICUやHCUでは、人工呼吸器や酸素療法を行っている患者が多いため、PaO₂の確認はとても重要になります。
PaO₂の正常値は、次の通りです。
PaO₂:80〜100 mmHg
この値が低下している場合、体に十分な酸素が取り込まれていない可能性があります。
特に新人が覚えておきたい目安は、次の値です。
PaO₂<60 mmHg
→ 低酸素血症(危険な状態)
この値を見たときは、「なぜ酸素が足りていないのか」を考える必要があります。
ICUやHCUでは、PaO₂が低下する場面として、次のようなものがあります。
・肺炎
・無気肺
・ARDS
・痰の貯留
・人工呼吸器設定の不適合
・酸素投与量の不足
また、PaO₂を見るときは、酸素投与量(FiO₂)も一緒に確認することが重要です。
例えば、
PaO₂:80 mmHg
(酸素なし)
この場合は大きな問題がない可能性がありますが、
PaO₂:80 mmHg
(FiO₂ 0.6)
この場合は、多くの酸素を使っているにも関わらずPaO₂が低めであるため、酸素化が悪化している可能性を考えます。
ICUでは、酸素化の評価としてP/F比(P/F ratio)が使われることもあります。
P/F比は、
PaO₂ ÷ FiO₂
で計算されます。
この値が低いほど、酸素化が悪い状態を示します。
目安としては、
P/F比 400以上→ 正常
P/F比 400〜300 → 準緊急〜緊急 酸素投与を検討
P/F比 300〜200 → 緊急 酸素投与開始、酸素流量調整
P/F比 200以下 → 超緊急 リザーバーマスク10L/分、気管挿管・NPPVの準備
と考えられます。
新人のうちは難しく感じるかもしれませんが、まずは
「PaO₂が60未満なら危険」
という目安を覚えておくだけでも、患者の状態変化に気づきやすくなります。
次のStep⑤では、循環の状態を評価するためにLactate(乳酸)を確認していきます。
Step⑤ Lactateを見る(循環の状態を評価する)
最後に確認するのが、Lactate(乳酸)です。
Lactateは、体の中で酸素が十分に使えない状態になったときに上昇する物質で、循環の状態やショックの兆候を評価するために非常に重要な指標です。
ICUやHCUでは、敗血症や出血など、循環が不安定になる患者が多いため、Lactateの値は必ず確認する習慣をつけておきたい項目です。
Lactateの正常値は、次の通りです。
Lactate:4〜14 mg/dl (文献によって差があります)
この値が上昇している場合、体の中で酸素が十分に届けられていない可能性があります。
ICUやHCUでは、Lactateが上昇する場面として、次のようなものがあります。
・敗血症
・出血性ショック
・心原性ショック
・低酸素状態
・痙攣後
・重度の循環不全
また、Lactateは1回の値だけでなく、経時的な変化を見ることが非常に重要です。
例えば、
Lactate:22.5 → 34.2 → 45
このように徐々に上昇している場合は、循環状態が悪化している可能性を考えます。
一方で、
Lactate:45 → 28.8 → 16.2
このように低下している場合は、治療が奏功し、循環状態が改善している可能性があります。
新人の頃は、「pHやPaCO₂ばかりに注目してしまう」ことも多いですが、Lactateの上昇は患者の重症度や緊急度を判断する重要なサインになることがあります。
そのため、血液ガスを確認するときは、
「Lactateは上がっていないか?」
という視点も忘れずに持つことが大切です。
ここまでのStep①〜⑤を順番に確認することで、
・何性の異常か(呼吸性か代謝性か)
・酸素が足りているか
・循環が保たれているか
という、患者の状態を判断するための重要な情報を整理して考えることができるようになります。
フローチャートにするとこんな感じになります。

次の章では、これまでの5ステップを使って、ICUやHCUで実際によく見る血液ガスの具体例を紹介していきます。
ICU/HCUでよく見る血液ガスの実例
ここからは、これまで解説してきた「5ステップ」を使って、ICUやHCUで実際によく見られる血液ガスの例を確認していきます。
数値を順番に確認しながら、「何が起きているのか」を一緒に考えてみましょう。
症例① 鎮静過多(呼吸性アシドーシス)
【患者背景】
人工呼吸器管理中の患者。鎮静中で、呼吸数が徐々に低下してきている。
【血液ガス】
pH:7.28
PaCO₂:55 mmHg
HCO₃⁻:26 mEq/L
PaO₂:92 mmHg
Lactate:10.8 mg/dl
それでは、5ステップに沿って考えてみます。
Step① pHを見る
pH:7.28(7.35未満)
→ アシデミア(酸性)
まず、体が酸性に傾いていることが分かります。
Step② PaCO₂を見る
PaCO₂:55 mmHg(45以上)
→ CO₂が体内に溜まっている
→ 換気不足の可能性
pHが低く、PaCO₂が上昇していることから、
呼吸が原因で酸性に傾いている可能性を考えます。
Step③ HCO₃⁻を見る
HCO₃⁻:26 mEq/L(正常範囲)
→ 代謝の大きな異常はなさそう
ここまでの情報から、
呼吸性アシドーシス
を考えます。
Step④ PaO₂を見る
PaO₂:92 mmHg
→ 酸素化は大きく問題なさそう
この時点では、酸素不足は主な問題ではないと考えられます。
Step⑤ Lactateを見る
Lactate:10.8mg/dl
→ 循環状態は大きく崩れていない可能性
ショックの可能性は低そうです。
この症例で何が起きているのか?
この患者では、
換気不足によってCO₂が体内に溜まり、呼吸性アシドーシスが起きている
可能性が考えられます。
ICUやHCUでは、次のような場面でよく見られます。
・鎮静が深すぎる
・人工呼吸器の換気量が不足している
・呼吸数が低下している
・呼吸筋の疲労
特に、鎮静中の患者では呼吸数の低下とPaCO₂の上昇が同時に見られることがあります。
この症例で新人が意識したいポイント
このような血液ガスを見たとき、新人の頃は
「少し異常だけど、経過を見てもいいのか?」
「すぐ報告した方がいいのか?」
と迷うことも多いと思います。
しかし、
・pHが7.28と低下している
・PaCO₂が55と上昇している
という所見は、換気が不十分になっている可能性を示しており、注意が必要な状態です。
特に、
・呼吸数の低下
・意識レベルの変化
・人工呼吸器設定の変更後
などがある場合には、早めに先輩や医師に報告することが重要になります。
血液ガスの異常は、患者の呼吸状態の変化を早く知るための重要なサインになります。
症例② 過換気(呼吸性アルカローシス)
【患者背景】
肺炎で入院中の患者。呼吸数が増加し、やや不安そうな様子が見られている。
【血液ガス】
pH:7.48
PaCO₂:30 mmHg
HCO₃⁻:24 mEq/L
PaO₂:70 mmHg
Lactate:13.5 mg/dl
それでは、5ステップに沿って考えてみます。
Step① pHを見る
pH:7.48(7.45以上)
→ アルカレミア(アルカリ性)
まず、体がアルカリ性に傾いていることが分かります。
Step② PaCO₂を見る
PaCO₂:30 mmHg(35未満)
→ CO₂が少ない
→ 過換気の可能性
pHが高く、PaCO₂が低下していることから、
呼吸が原因でアルカリ性に傾いている可能性を考えます。
Step③ HCO₃⁻を見る
HCO₃⁻:24 mEq/L(正常範囲)
→ 代謝の大きな異常はなさそう
ここまでの情報から、
呼吸性アルカローシス
を考えます。
Step④ PaO₂を見る
PaO₂:70 mmHg
→ やや低下している(低酸素の可能性)
酸素化がやや低下しているため、呼吸数が増えている原因として低酸素を考える必要があります。
Step⑤ Lactateを見る
Lactate:13.5 mg/dl
→ 循環状態は大きく崩れていない可能性
ショックの可能性は低そうです。
この症例で何が起きているのか?
この患者では、
低酸素や不安などによって呼吸数が増え、CO₂が過剰に排出されていることで、呼吸性アルカローシスが起きている
可能性が考えられます。
ICUやHCUでは、次のような場面でよく見られます。
・肺炎などによる低酸素
・不安や疼痛
・発熱
・敗血症の初期
・人工呼吸器の設定過多(過換気)
この症例で新人が意識したいポイント
呼吸性アルカローシスは、「過換気=呼吸が多い状態」で起きることが多いため、呼吸数の変化とセットで考えることが大切です。
特に、
・呼吸数の増加(20回/分以上)
・SpO₂の低下
・努力呼吸(肩呼吸、陥没呼吸など)
といった所見がある場合には、低酸素や呼吸状態の悪化が進んでいる可能性を考えます。
また、この症例では、
PaO₂:70 mmHg
とやや低下しているため、酸素投与量が適切かどうかや、呼吸状態が悪化していないかを確認する必要があります。
「PaCO₂が低い=安心」ではなく、
「なぜ過換気になっているのか」を考えることが、新人のうちから大切な視点になります。
症例③ 敗血症(代謝性アシドーシス+Lactate上昇)
【患者背景】
肺炎で入院中の患者。発熱と血圧低下が見られ、尿量も徐々に減少している。
【血液ガス】
pH:7.29
PaCO₂:34 mmHg
HCO₃⁻:18 mEq/L
PaO₂:85 mmHg
Lactate:43.2 mg/dl
それでは、5ステップに沿って考えてみます。
Step① pHを見る
pH:7.29(7.35未満)
→ アシデミア(酸性)
まず、体が酸性に傾いていることが分かります。
Step② PaCO₂を見る
PaCO₂:34 mmHg(やや低下)
→ CO₂がやや少ない
→ 呼吸はむしろ増えている可能性
pHが低いのにPaCO₂が低下しているため、
呼吸が原因ではなさそうと考えます。
Step③ HCO₃⁻を見る
HCO₃⁻:18 mEq/L(低下)
→ 代謝の異常が起きている
ここまでの情報から、
代謝性アシドーシス
を考えます。
また、PaCO₂が低下しているのは、
呼吸によって酸性を補おうとする代償反応の可能性があります。
Step④ PaO₂を見る
PaO₂:85 mmHg
→ 酸素化は大きく問題なさそう
この時点では、酸素不足が主な問題ではないと考えられます。
Step⑤ Lactateを見る
Lactate:43.2 mg/dl(上昇)
→ 循環不全の可能性
→ ショックを疑う値
この数値は、非常に重要なサインです。
この症例で何が起きているのか?
この患者では、
循環不全によって乳酸が上昇し、代謝性アシドーシスが起きている
可能性が考えられます。
敗血症では、血圧低下や循環不全によって、体の各組織に十分な酸素が届かなくなります。
その結果、乳酸が産生され、Lactateの上昇とHCO₃⁻の低下が見られることがあります。
ICUやHCUでは、次のような所見と一緒に見られることが多いです。
・血圧低下
・尿量減少
・頻脈
・発熱または低体温
・意識レベルの変化
この症例で新人が意識したいポイント
この症例のように、
・pHが低下している
・HCO₃⁻が低下している
・Lactateが上昇している
という所見がそろっている場合は、
「様子を見る」のではなく、早めの報告が必要な状態と考えます。
特に、
Lactate:43.2 mg/dl
という値は、ショックを疑う重要なサインです。
新人の頃は、「数値が少し悪いだけかもしれない」と思ってしまうこともありますが、
Lactateの上昇は患者の重症化を示すサインになることがあるため、見逃さないことが大切です。
また、Lactateは1回だけでなく、
「前回と比べて上がっていないか」
という視点も重要になります。
例えば、
Lactate:18.9 → 31.5 → 43.2
のように上昇している場合は、状態が悪化している可能性があるため、注意が必要です。
敗血症では、血液ガスの変化が患者の状態悪化を早期に示すことがあります。
そのため、血液ガスの結果を見たときには、数値だけでなく、患者の全身状態と合わせて判断することが重要になります。
症例④ 嘔吐・胃管吸引(代謝性アルカローシス)
【患者背景】
腸閉塞で入院中の患者。胃管を留置し、持続吸引を行っている。最近、食欲低下と軽度のふらつきが見られている。
【血液ガス】
pH:7.49
PaCO₂:46 mmHg
HCO₃⁻:32 mEq/L
PaO₂:88 mmHg
Lactate:12.6 mg/dl
それでは、5ステップに沿って考えてみます。
Step① pHを見る
pH:7.49(7.45以上)
→ アルカレミア(アルカリ性)
まず、体がアルカリ性に傾いていることが分かります。
Step② PaCO₂を見る
PaCO₂:46 mmHg(やや上昇)
→ CO₂がやや溜まっている
pHが高いにも関わらずPaCO₂が上昇しているため、
呼吸が原因ではなさそうと考えます。
むしろ、アルカリ性を補うためにCO₂を溜めようとする、代償反応の可能性があります。
Step③ HCO₃⁻を見る
HCO₃⁻:32 mEq/L(上昇)
→ アルカリが増えている
→ 代謝の異常が起きている
ここまでの情報から、
代謝性アルカローシス
を考えます。
Step④ PaO₂を見る
PaO₂:88 mmHg
→ 酸素化は大きく問題なさそう
この時点では、酸素不足は主な問題ではないと考えられます。
Step⑤ Lactateを見る
Lactate:12.6 mg/dl
→ 循環状態は大きく崩れていない可能性
ショックの可能性は低そうです。
この症例で何が起きているか?
この患者では、
胃管による吸引や嘔吐によって胃液(酸)が失われ、体がアルカリ性に傾いている
可能性が考えられます。
胃液には強い酸(塩酸)が含まれているため、嘔吐や胃管吸引が続くと、体の中の酸が減少し、代謝性アルカローシスが起きることがあります。
ICUやHCUでは、次のような場面でよく見られます。
・嘔吐が続いている
・胃管による持続吸引
・利尿薬の使用
・脱水状態
この症例で新人が意識したいポイント
この症例では、
・pHが上昇している
・HCO₃⁻が上昇している
という所見から、代謝性アルカローシスを考えることができます。
特に、
胃管吸引が続いている患者
では、アルカローシスが起きやすいため注意が必要です。
また、代謝性アルカローシスが進行すると、
・ふらつき
・意識レベルの変化
・不整脈
などが見られることもあります。
そのため、
・嘔吐が続いている
・胃管排液量が多い
・利尿薬を使用している
といった患者では、血液ガスの変化にも注意を向けることが大切です。
血液ガスの異常は、患者の体の変化を早期に知るための重要なサインになります。
症例⑤ 出血性ショック(Lactate上昇)
【患者背景】
消化管出血で入院中の患者。血圧がやや低下し、顔色不良と頻脈が見られている。尿量もやや減少している。
【血液ガス】
pH:7.36
PaCO₂:38 mmHg
HCO₃⁻:21 mEq/L
PaO₂:90 mmHg
Lactate:46.8 mg/dl
それでは、5ステップに沿って考えてみます。
Step① pHを見る
pH:7.36(正常範囲)
→ 一見すると正常
しかし、pHが正常でも安心はできません。
代償によって、見かけ上pHが正常になっている可能性があるため、次のステップに進んで確認します。
Step② PaCO₂を見る
PaCO₂:38 mmHg(正常範囲)
→ 呼吸の大きな異常はなさそう
この時点では、呼吸が主な原因ではないと考えられます。
Step③ HCO₃⁻を見る
HCO₃⁻:21 mEq/L(やや低下)
→ 代謝の異常が起きている可能性
軽度の代謝性アシドーシスを疑います。
Step④ PaO₂を見る
PaO₂:90 mmHg
→ 酸素化は保たれている
酸素不足が主な問題ではなさそうです。
Step⑤ Lactateを見る
Lactate:46.8 mg/dl(大きく上昇)
→ 非常に重要な異常値
→ ショックを強く疑う
この値は、緊急性の高い状態を示している可能性があります。
この症例で何が起きているか?
この患者では、
出血によって循環血液量が減少し、組織に十分な酸素が届かない状態(ショック)が起きている
可能性が考えられます。
その結果、体は酸素不足を補うために乳酸を産生し、Lactateが上昇していると考えられます。
出血性ショックでは、次のような所見と一緒に見られることが多いです。
・血圧低下
・頻脈
・顔色不良
・尿量減少
・冷感(四肢冷たい)
・意識レベルの変化
この症例で新人が意識したいポイント
この症例で最も重要なのは、
pHが正常でも安心しないこと
です。
新人の頃は、
「pHが正常だから様子を見てもいいのでは?」
と考えてしまうこともあります。
しかし、この症例のように、
・pHが正常
・HCO₃⁻がやや低下
・Lactateが上昇
という場合は、すでに体の中で循環不全が進んでいる可能性があります。
特に、
Lactate:46.8 mg/dl
という値は、緊急性の高いサインと考える必要があります。
このような場合には、
「様子を見る」のではなく、
速やかに先輩や医師に報告することが重要です。
血液ガスは、「異常がはっきり出てから」ではなく、
患者の状態悪化の“早期のサイン”として現れることがある
ということを意識しておくことが大切です。
新人が迷いやすいポイント
血液ガスの読み方を覚えてきても、新人の頃は「どう判断すればいいのか迷う場面」が多くあります。
ここでは、ICUやHCUで新人が特に迷いやすいポイントについてまとめました。
pHが正常でも安心しない
新人の頃は、
「pHが正常だから大丈夫」
と考えてしまうこともあります。
しかし実際には、体がpHを正常に戻そうとする働き(代償)が起きている場合、見かけ上pHが正常に見えることがあります。
例えば、
pH:7.36(正常)
HCO₃⁻:21(やや低下)
Lactate:46.8 mg/dl(上昇)
このような場合、pHは正常でも、体の中ではすでに異常が進んでいる可能性があります。
「pHが正常=問題なし」ではない
という視点を持つことが大切です。
SpO₂が良くても安心しない
SpO₂が保たれていると、「酸素は大丈夫」と思ってしまうこともあります。
しかし、SpO₂が保たれていても、
・酸素投与量(FiO₂)が高い
・PaO₂が低下している
という場合は、酸素化が悪化している可能性があります。
例えば、
SpO₂:98%
(酸素10L投与中)
このような場合は、「数値が良い」だけで安心するのではなく、どれだけ酸素を使っているかも一緒に確認することが重要です。
数値だけで判断しない
血液ガスは重要な検査ですが、数値だけで判断するものではありません。
必ず、
・呼吸数
・血圧
・心拍数
・尿量
・意識レベル
といった患者の全身状態と合わせて考えることが大切です。
例えば、
Lactateが上昇していて、
さらに
・血圧低下
・尿量減少
・頻脈
といった所見が見られる場合は、循環不全が進行している可能性を考える必要があります。
前回の値と比較する
血液ガスは、1回の値だけでなく、変化を見ることがとても重要です。
新人の頃は、「今回の値が正常か異常か」だけに注目してしまいがちですが、
・前回と比べて悪くなっていないか
・改善しているか
という視点を持つことで、患者の状態変化に早く気づくことができます。
例えば、
Lactate:20.7 → 32.4 → 43.2
のように上昇している場合は、状態が悪化している可能性を考えます。
逆に、
Lactate:45 → 31.5 → 18.9
のように低下している場合は、治療が奏功している可能性があります。
血液ガスは、「点」ではなく、「流れ」で見ることが大切です。
まとめ(迷ったらこの順番で確認しよう)
血液ガスは一見難しく感じますが、見る順番を決めておくことで、落ち着いて判断できるようになります。
新人の頃は、「何から見ればいいのか分からない」「報告していいのか迷う」と感じることも多いと思います。
私自身も、異常値を見つけても判断に自信が持てず、迷いながら先輩に報告していた経験があります。
しかし、血液ガスは順番に確認していくことで、患者の状態を整理して考えることができる検査です。
迷ったときは、次の順番を思い出してみてください。
【血液ガスを見る「5ステップ」】
① pHを見る
→ アシデミアか?アルカレミアか?
② PaCO₂を見る
→ 呼吸が原因か?
③ HCO₃⁻を見る
→ 代謝が原因か?
④ PaO₂を見る
→ 酸素は足りているか?
⑤ Lactateを見る
→ 循環は保たれているか?
この順番で確認することで、
・何性の異常か
・酸素は足りているか
・循環が保たれているか
という重要なポイントを整理して考えることができます。
最初は「完璧に読めなくて大丈夫」
新人の頃は、血液ガスを見てもすぐに判断できず、不安に感じることも多いと思います。
しかし大切なのは、
「完璧に読むこと」ではなく、「気づくこと」
です。
「少しおかしいかもしれない」
「前回と比べて変化している」
と感じることができれば、それは大きな一歩です。
迷ったら、ひとりで抱え込まない
血液ガスの結果を見て、
「このまま経過を見ていいのか?」
「報告した方がいいのか?」
と迷うことは、新人の頃にはよくあります。
そんなときは、
迷った時点で、先輩や医師に相談すること
を大切にしてください。
報告することで「問題なかった」と分かることもありますが、それは決して無駄ではありません。
むしろ、患者の安全を守るために必要な行動です。
血液ガスは、患者の状態変化を早期に知るための大切な手がかりになります。
さらに理解ができればそれぞれのアシドーシスやアルカローシスに対して代償ができているのか、その代償は急性なのか慢性なのかも血液ガスデータから分かるので、私はそれが分かるようになってからは血液ガスデータを読むのが好きになりました。
この記事が、血液ガスに対する苦手意識を少しでも減らし、日々の看護に役立ててもらえるきっかけになれば幸いです。
また血液ガスで異常を捉えることも重要ですが、実際の臨床では、その前に呼吸数の変化として異常が現れることも少なくありません。
呼吸数は、患者状態の変化を早期に察知する重要なバイタルサインです。
▶ 呼吸数が増える理由と看護アセスメントはこちら

参考文献
1)救急初療看護に活かすフィジカルアセスメント
2)ICU3年目ナースのノート 改訂増強版
3)日本救急看護学会 フィジカルアセスメントセミナー配布資料 2026年

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